レシートのすみで、始まったこと

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レシートに赤ペンで✘をつけていた時期があった。

進学して一人暮らしを始めた時。
私の生活を支えてくれたのは、家族からの仕送り。

育った家の状況を思うと、
決して軽い額ではなかった。

その重みを感じていたから、
大切に使いたいと思っていた。

多くの無駄遣いはしなかったけれど、
私の買物には「必要ないもの」も混ざっていた。

「美味しそう」「便利そう」
そう思って買ったのに、
食べきれなかったり、使わずにしまっておいたり。

家計簿をつけながら、レシートを見て残念に思う。

「これ、いらなかった。」

ふと、「どのくらい、いらない物を買っているのかな」と思い、
いらなかったと感じた物を選び出し、
その理由を考えながら、
レシートの商品名の横に
赤ペンで✘をつけてみた。

「これ、いらない」が
立体になって浮かび上がって見えた。

試しに手元にある他のレシートにも、
同じように✘をつけてみた。
なんとも言えない「チクリ」が胸に刺さって効いてきた。

買物のたびに✘をつけた。
「なんで買ったんだっけ」と
自分に聞くのが習慣になった。

もともと、なんでもゲームのように楽しみながらやってきたから、
✘を減らす買物ゲームが始まった。

相手は外側。
味方は私の内側。

✘をつけていくと、
攻略のルールが見えてきた。

安いだけじゃダメ。
お腹が空いている衝動で買ってはダメ。
人の目を気にしただけのものもダメ。

商品を手に取る時。
会計に並ぶ前。
「これ本当に必要?」
と立ち止まるポイントをつくった。

一度かごに入れた商品を「やっぱり必要ない」と気付いて、
棚に戻すとき、「ふふふ。」と笑う。

✘はどんどん減っていく。
胸の中の「チク」「チクチク」が減っていく。

選ぶ基準が研ぎ澄まされると、
判断に迷う時間が減っていった。

「なんか、いい方法、見つけちゃったかも。」
と、私の内側と目配せしながら「ふふふ。」と笑う。

最後は、私に必要なものだけを、高確率で選べるようになった。
ゲーム攻略。

深い呼吸を感じながら、
一人で静かに「もう大丈夫」と達成感を味わう。

そしてだんだん気付いていく。
✘は必要ない買物だった、の反対側で、

✘がつかなかった物は、
「私にとって価値のある買物だった」
と、私が認めていることに。

✘がつく物をほとんど買わなくなった頃、
自分にとって何が価値のあるものなのか、
くっきりした輪郭を持って感じ取れるようになっていた。

そこからは、
必要か必要でないかの判断は
どんどん力をつけ、

人との過ごし方、
時間の使い方、
休み方。
色々なことに一気に広がった。

レシートの✘の時と同じように、
「私はどう感じている?」「それはなぜ?」
と私に聞く。

何か誘われたとき、
私は「気分が乗らないから、なんとなく断る」
ということはあまりしない。

「忙しくて疲れているから、今日は休む。」
「今日は他にやりたいことがあるから、ごめんなさい。」
心の中で整理する。

だから私の選択は、大きく外れることがあまりない。
たぶん、90点は取れる。
うまくいけば、120点。

いつも、私の内側に聞いていたら、
実は今まで、自分のことがよくわかっていなかったと気づき、
今は、自分の輪郭がはっきりしていると感じている。

「私は、この人と一緒にいる時に楽しいと感じている。」
「私は、こんな風に時間を使えている時に幸せを感じている。」

自分で感じて、自分で選ぶことができる。
このことは、私に自信をくれた。

大切な物が見え、
そうでないものは静かに手放していく。

今はもう、レシートに✘をつけなくても
自分にとって価値のあるものを選ぶことができる。

次々に新しいことに目が向いて、
新しい世界に一歩足を踏み入れようとする時。

そのたびに、
「私はどう感じている?」「それはなぜ?」
と忘れずに私に問いかける。

私のルールは、思ったよりも単純で、
どんな場面にも共通していた。
だからきっと、どんな選択も難しくない。