仏像の背中の筋肉を見るのが好きな人がいる。
初めて会った時、
柔らかい雰囲気のその人が、静かな声で、
突然、そう言った。
え、仏像の背中の筋肉?
気にしたこともないその風景を
想像してみた。
それから、
たまたま立ち寄った博物館で
二体の仏像に出会った。
背中側に回り込んで見ている観覧者は、
私ひとり。
これがあの人が見ている美しさ。
わかるような、わからないような。
ちょっと笑ってしまう。
新しい世界。
2回目にあったとき、
その人が、パーソナルトレーナーだったと初めて知った。
背中を見た話をした。
みんなで笑った。
「筋肉の世界にようこそ。」と、その人は言う。
運動センスゼロ、運動習慣ゼロの私が、
いつの間にか
筋肉の世界に一歩踏み入れたことになっている。
ユニークなものに夢中になっている人は、
少し覗いてみたいと
ドアノブに手をかけた瞬間に、
いつも向こう側からドアを開けて手をのばす。
筋肉の話になると「私の変態が出てくる。」と言いながら、
少し照れたように、でも真剣に語ってくる。
話を聞きに来た人達に手ほどきしながら、
「腰の下に空間ができないように、腰を床に押し付けて」と指示。
浮いてしまう腰の下に手を差し込んで、
「手が抜けちゃうよ」「はい、抜けてますよー」と真顔で言う。
いつも静かなその人に、熱がこもる。
筋肉との対話ができず
外野に回った私たちは、
目の前の双方の真剣さに引き込まれる。
「また変態が出ていますよ。」
でも、
その人独特の、本当にユニークな変態を、
きっとまだ隠している。
また必ず会いに行こう。
仏像の背中から始まったこの世界を、
もう少しだけ覗いてみたい。

