細い糸を残す

Uncategorized

向かい側の席で、
その人は、ひとり静かだった。

50人以上が集まった、
仲間内の忘年会。

ガヤガヤ賑やかになっていく店内。

隣の席は、
箸を持つだけで肘が触れる。

向かい側の席は少し遠くて、
声が届きにくい。

その人は、
ガヤガヤする雰囲気に飲まれず、
隣の人と少し話しては一人で無理なく過ごし、
大きく視線を動かすことも、
頑張って話しかけることもなく、
食事を摂る。

座っているだけの時間に無理が無く、
居る姿が視界の端にだんだん入ってくる。

声をかけた。
「ブログを書いています」と教えてくれた。

周りの声に、声が途切れる。
たぶん、今日はこれ以上深く話せない。

解散少し前、
もう一度、話しかけた。

日本酒を飲んでいた私に、
「いつも日本酒なんですか」と聞き、
お互いのことを少し知った。

席を立つ時。
「機会があったらぜひまた。」と笑顔で。

「ぜひ。」と笑顔が返ってくる。

帰りの電車。
少し離れた席に、また静かに座っていた。

もう一度、声をかける。
すぐ次が終着駅。

何度も繋いだ細い糸。
私が静かに辿っていけば、
糸は切れない気がした。

数日後、少し勇気を出して送信。
「ブログの設定がわからなくて。」

会って教えてくれるという。

ランチをしながら、昼前から夕方まで。
あの時の静かな雰囲気そのままに、
あの時より二人でたくさん笑った。

次の約束もした。

別れたあと、

会話の内容よりも、
空気だけが残っていた。